FOOLS GOLD〔デースケドガー〕19 | FOOLS GOLD 

FOOLS GOLD〔デースケドガー〕19

 

300Vに浸っている彼女の姿はとても恐ろしいものだった。顔は歪み、涎を口元に光らせ、その涎は光ったさきから焦がされていった。元々フラッパーな髪型はまさに天を突き、呪怨のお母さんも裸足で逃げ出すだろう。顔も身体も小刻みに震え、声にならない声でビブラートにつつみ低音で叫び続けた。あと1オクターブ低ければまさに呪怨の唸り声だ。唸りながら彼女は自分の腕を所在なく顔のそばにやったり、胸から腰をまさぐったり、片手を前に突き出したり、頭の上でクロスさせたりしていた。その様子はまるで昔流行したヴォーギングだった。ヴォーギング。マドンナ。世の中が浮かれていた時代。懐かしきバブル。懐かしき学生時代。彼女のヴォーギングは危機せまるものがあった。ファッションではなかった。瞳も焦点定まらず、所在なく動いていた。目には力なく精気が感じられなかった。

 

 

彼女の全ての動きが一瞬止まった。彼女の瞳にも一瞬光りが宿ったように見えた。それから涙がまさに滝のように流れ出てきた。これほどの涙の量を見たのは初めてだった。大声で泣く女がいる。長時間泣く女がいる。無言で一滴涙を流し、心に押し留める女がいる。女の涙には多くの種類があるが、この涙の量は異常だった。涙とは違う呼び名で呼ばれるべき何かだった。誇張でなく、水の流れ出る音がした。だがその音は涙の流れ出る音ではなかった。彼女は泣きながら失禁していたのだった。

 

 

「おい、もう止めてくれ、彼女は限界だ。もう、いいだろう!」

僕はディーラーに向かって叫んだ。

ディーラーは2メートル先のカップを見つめるタイガーウッズのような表情で、極めてプロフェッショナルに判断していた。まだだ、まだ限界ではない、彼の態度からそう判断しているのが分かった。

「まだ、、、、、できる、、、、」彼女も力を振り絞り答えた。

 

 

なぜ彼女がかくもこの勝負に固執するのか分からなかった。はやく失神するかなにかして勝負続行不可能にしてしまえばいいのだ。負けても彼女としては大した損にはならないはずだ。たかだが何百万だ。彼女の組はこの賭場の興行収入で大分潤うはずだ。もしくはコネなり人脈なりある世界での影響力なり、ある種の力を得るはずだ。それとも何か僕に分からないペナルティがあるのだろうか?分からなかった。

 

 

ディーラーが新たにカードの封を切りシャッフルした。6勝負目が始まった。

 

 

つづく

 

 

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