FOOLS GOLD〔デースケドガー〕12 | FOOLS GOLD 

FOOLS GOLD〔デースケドガー〕12




 5枚目のカードが配られた。
 (ざわ)
 最初の相手が彼女だったのは偶然だった。彼女がどんな気持ちで僕を嵌めたのかはわからない。でも今となってはそんなことは瑣末なことだ。見世物になった僕らはどちらも立場に差異はなかった。僕は相手が誰だろうと第一に生還することを考えねばならない。できれば最小限の犠牲で。

 最初の勝負が始まった。勝負事はなんでもそうだが重要なのは「手」ではない。配牌やカードの内容やダイスの出目ではなく、押し引きがポイントとなる。「手」はあくまで偶然の産物なのでそこに優劣を組み込んでも意味は無い。勝てる時にどれだけ強く押せるか、または、劣勢の時にどれだけ自制できるかが勝敗を分けるのだ。そして必ず勝負所、いわゆる天王山とういものがある。それを見極め、獲得すること。それがギャンブルの大原則だ。そして言うまでも無く、最初の勝負は最重要ポイントのひとつだった。

 僕のカードは左から「クローバーの6・ダイヤの9・スペードのA・ハートのJ・ハートの8」だった。僕は一目見て安堵感を覚えた。まずまずの手だ。頭から「9・8・A・6・J」と並べれば相手が「ドガー」を宣言しても僕の数は「7」になる。「デースケ」か「デースケドガー」ならば僕の数は「9」だ。この場合「8」と「6」の位置はセオリーとして逆にはならない。統計的に言っても、宣言の割合はデースケが34%、デースケドガーが36%、ドガーが30%となっている。つまり宣言されにくいところに弱い数字を置くのがセオリーだ。だがもちろんセオリーを過信してはならない。セオリーはあくまでセオリーでしかないのだから。

 僕は真中の「スペードのA」を開示して前述の順番に並べた。
彼女は「ダイヤの7」を開示していた。ラッキーセブン。願掛けのつもりかもしれない。
 (ざわ ざわ)           (ざわ ざわ)
    (ざわ ざわ)           (ざわ ざわ)
 周りがざわめき始めた。きっと僕ら二人の外馬に乗っているに違いない。僕は極度の緊張を感じ、手のひらの汗を拭った。

 「まずはファーストベットを」超一流のホテルマンのようなかいがいしさでディーラーが聞いた。彼女は札束(ズク)をディーラーに渡した。僕は持ち合わせがないので、紙の切れ端に「小指」と書いて差し出した。
 (ざわ ざわ)           (ざわ ざわ)
 ギャラリーは僕に負けて欲しいのだろうがそうはいかない。僕はなんとしてもサヴァイヴしてみせる。自分の気持ちを奮い立たせるため、自分の頬を両手で張った。

 「レイズ オア ステイ?」ディーラーが尋ねると僕も彼女もステイと答えた。いくら手持ちがあるか知らないが、彼女もできるだけ平穏に終わらしたいはずだ。さすれば両手の指を何本も失わなくてもすむかもしれない。僕はこの時そんな希望的観測に身を浸した。

 「何を選択しますか?」ディーラーはまず彼女に聞いた。普通のデースケドガーではまずバンカーに聞く、そしてプレイヤー、最後にもう一度バンカーに変更がないか尋ねる。今回は両方ともプレイヤーなので単にレディーファーストなのかもしれない。
 「デースケ」彼女は答えた。
 僕は顔色が変わらないよう気をつけた。そしてそのままでいてくれと心のずっと奥底で祈った。
 「何を選択しますか?」
 「ドガー」僕はセオリーの逆を突いた。彼女がセオリーを知っていればドガーの位置に一番弱い目を置くはずだ。彼女の想いを探ろうと、彼女の顔やしぐさを凝視した。彼女は先刻から無表情で相変わらず淋しそうな瞳をたたえていて、そこからはなにも読み取ることはできなかった。

 「変更しますか?」頼むからそのままでいてくれ。だが祈りむなしく彼女は変更すると答えた。
 (ざわ ざわ)         (ざわ ざわ)
 周りが少しざわめいた。デースケドガーは基本的に心理戦である。なるべく与える情報は少ない方が良い。これは基本原理だ。情報が少ない序盤戦はあまり変更しない方がセオリーとされている。そのためギャラリーがざわめいたのだ。
 「ドガー」
 しまった。彼女はこちらに合わせてきた。僕のドガーは「7」だ。これで負ける可能性が出てきた。手のひらに汗が出てきた。バットで殴られた所がまた痛み出した。

 「変更しますか?」今度は僕に尋ねた。
 「変更します」
  (ざわ)        (ざわ)
      (ざわ)        (ざわ)
 変更に変更を重ねる。これもセオリーにない。僕は良くない風を感じていた。ドガー以外なら負けはなかった。さらに最初に僕がドガーを宣言していなければ、彼女はドガーに変更しなかったかもしれない。頭のケガした部分がズキズキと脈打っている。夏だというのに少し寒気もしてきた。僕は緊迫感で胃がせり上がってくる思いがした。
 
 少しでも緊張を解しリラックスしようと、僕は冗談を言う事にした。
    (ざわ)        (ざわ)
  (ざわ)        (ざわ)
 
「デースケドガーでドーデガス!
 
    (ざわ)        (・・・・・)
       (・・・・・)        (・・・・・)
 
誰も笑わなかった。
      
 (・・・・・)       (・・・・・)
  (・・・・・)        (・・・・・)
 
冷たい汗が背中を流れた。



つづく


第 2 回 SEO コンテスト (新潟・スマトラ頑張れ!!)