FOOLS GOLD〔デースケドガー〕13
ディーラーはクールだった。彼はニコリともしなかったし、白い目で僕を見ることも無く、もちろんつっこみなどもってのほかであった。まるでカサブランカみたいにハードボイルドなディーラーは冷静にそれぞれに対して異存がないか尋ねた。
満州式では相手の宣言に対し拒否をすることができる。ただし拒否権の購入には自分の身体を代価にしなければならない。僕は最初の勝負から選択の岐路に立たされた。
1.最初の勝負はとても重要である。
2.ドガー以外なら負けは無い
3.ただし勝っても負けても小指が無くなる。労多くして得るものが少ない勝負となる。
4.自分の指を切断することを自ら決断する勇気がない。
5.ドガーのママでも「7」なので決して弱い数字ではない。
いろいろ考えたが4番を選択した。結局のところ僕はヘタレでビビリなのだ。
彼女も拒否せず受け入れた。
「オープン ユア カード」ディーラーはNHK英語口座の兄ちゃんみたいな巻舌でクァルドと発音した。いやみな奴だ。僕は昔から外来語をうまく発音する奴が嫌いだった。偏見かもしれないが。
僕のカードはもちろん「7」だ。
彼女が1枚目と5枚目のカードを捲った。「スペードの8」と「クローバーのA」だった。
視界がグニャリと音を立てた。僕の目に映るものは全て歪んで見えた。水の中かから聞く音みたいに全ては遠くの出来事みたいに感じられた。いまさらながらに、自分に降りかかった災厄を恨んだ。言うまでも無く僕の負けだった。また頭が痛みだした。
彼女のカードを全て開示した。「スペードの8、スペードの9、ダイヤの7、クローバーの5、クローバーのA」だった。僕は素早く計算し、驚愕した。僕がこのカードだったら、順番はともかくAを真中にして8と7で挟む。そうすればデースケとドガーが「9」と「8」デースケドガーが「4」となり3分の2で強い目となる。彼女の並べ方ではデースケドガーこそ強い目だが、3分の2で弱い目となる。僕はもう一度彼女の瞳を見つめた。あいかわらず彼女の瞳には何も答えはなかった。そのことが余計に恐ろしく感じた。
どこからともなく、指の切断機が現れた。ジャパネット○かたできゅうりを便利にカットする調理器具みたいだった。自分の顔が歪むのがわかった。叫び出しそうになった。声にならない咆哮だ。僕はチャカカーンを恨んだ。ジャパネットの社長も恨んだ。ニューオーダーも恨んだし、相田みつをも恨んだ。泣き叫んで哀願すれば許して貰えるかもしれない。誰か偉い人が自分に同情し助けてくれるかもしれない。この窮地から救ってくれるかもしれない。だが心が崩れるその境界線で踏み留まった。よく考えろ。そんな都合の良いことは絶対にない。まともな人間はこんな勝負のギャラリーにはならないし、来ている客は全て、他人の痛み、もしくは精神の崩壊する様を楽しみにしているのだ。
僕は指切断機に左手の小指を差込み、目を瞑った。
つづく
第 2 回 SEO コンテスト (新潟・スマトラ頑張れ!!)