FOOLS GOLD〔デースケドガー〕21 | FOOLS GOLD 

FOOLS GOLD〔デースケドガー〕21

前回につづいてビッグゲームになった6勝負目、流れは僕にあるといっていいだろう。このゲームは天王山というよりもむしろクライマックスになるはずだ。いまの僕に指を失う怖さなどない。(もちろん慣れたとはとても言えないけれども)むしろ電圧の方が恐怖だ。彼女は最初にデースケドガーを宣言したので、このままなら僕の目は最強の「9」だ。負けはない。

僕はデースケを宣言した。僕も彼女も宣言を変更しなかった。よし。また勝てたぞ。勝利を確信した刹那、彼女がとても小さな声で囁いた。

彼女の声はあまりに細く、よく聞きとれなかった。ディーラーが促すと今度ははっきりと口にした。

「NO!」

彼女は僕の宣言「デースケ」を否定したのだった。僕は一瞬訳が判らなかった。それは彼女が否定を購入するなんて思いもつかなかったから。なぜなら、なぜならこの局地的な限定的な閉ざされた世界にあって、彼女は「NO」という言葉を知らないはずだった。少なくとも僕はそう考えていた。だけどそれは間違いだった。そうだ、思い違いなのだ。初めて彼女を駅のホームで見かけた時、それはとても昔のお話、この奇妙な世界とは無縁の日々、彼女はナンパしにきた白人に向かってはっきりとNOと叫んだではないか。そう。彼女は否定する権利があるし、またその勇気も併せ持つのだ。

 

 

僕は「デースケ」を「デースケドガー」に変更した。彼女のカードも僕のカードも「9」でイーブンだった。金額も動かず、二人とも電圧はそのままだったが、彼女の前に例のきゅうり切断機が運ばれてきた。彼女は取り乱す事も目を瞑ることもなく、堂々と指を差し出した。その姿は決して自暴自棄になっているのではなく、恐怖で感覚がマヒしているのではなく、あきらめているのではなく、あらゆる事象をあるがままに受け入れている姿であった。かつて僕の人生で、この時の彼女ほど崇高な女性を見たことはなかった。

 

 

つづく

 

 

 

 

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