FOOLS GOLD〔デースケドガー〕27 | FOOLS GOLD 

FOOLS GOLD〔デースケドガー〕27

「レイズ オア コール?」

ディーラーが彼に問い掛けたが、彼も長考していた。当然だ。デースケドガーは認識と想像力のゲームだ。僕がレイズアップする金額、タイミング、声色、あらゆることを考慮して、推理の基盤とするのだ。手本引きよりゲーム内容が単純な分、よりその性格は顕著だ。簡単に答えをだすのは、想像力が弱いからだろう。彼も一回戦を勝ち上がってきたのだから、当然楽な相手ではない。

 

「レイズ オア コール?」

僕が500万にレイズアップしてから、10分は経過しただろうか?あるいは永く感じたが実際には5分くらいだったかもしれない。2回目にディーラーが訊ねると彼は何も言わずにディーラーに札束を投げ捨てた。僕はその行為を目で見ていたわけではなく、ドサッという音がしたので、かなりの札束をレイズしたのだと思った。マナーの悪いやつだ。賭場には賭場のマナーがある。きたない野郎だと思ったが、思い直した。それだけ彼も必死なのだ。こんな状況下でマナーを求める方がどうかしている。

 

僕は再度岐路に立つ事になった。またレイズした金額が分からない。こんどは指で清算しなくてはならない。先ほどの音から判断するとかなりの金額だろう。できればコールして金額を合わせたい。あるいは今度こそ勝負を降りるか。今回は金額を訊ねても不自然ではないだろう。彼はアップした金額を言わなかったし、札束も多くなり一目ではいくらかわからないだろうから。僕はディーラーに向かって幾らですかと訊ねた。その刹那、彼は僕に向かって「ウィナー」と叫んだ。

「?」

僕はわけがわからずテーブルの向かい側、相手の方を見た。先ほどまでそこにあった黒い塊、車掌さんがいなくなっていた。先ほどの音は彼がイスから転げ落ちる音だった。きっと1試合目で既に限界にきていたのだろう。彼が倒れたその瞬間に僕の勝利は確定的だったはずだが、視界が悪くなっている僕はディーラーに宣言されてやっと理解した。僕は勝利したのだ。生き延びたのだ。やっと開放されるのだ。そしてこのくそったれな世界と縁を切ることができるのだ。

 

彼がどんな状態でいるのかはわからないが、彼女同様凄惨なのだろう。クールなディーラーは僕を「ウィナー」と讃えた。

「勝者」

僕はその意味を考えた。どこかで笑い声が聞こえた。それはとても大きな笑い声なのだが、どこから聞こえるのかすぐにはわからなかった。この部屋には3人しかいないはずだった。倒れた勝負相手の彼とディーラーと僕だ。倒れた彼のはずがない。ディーラーも笑うはずがない。彼は中立の立場だし、それにクールな彼がそんな笑い方をするわけが無い。笑っているのは僕だった。こんなに大きな声で笑ったことがないので、すぐには自分の笑い声と気付かなかった。もちろん、生き延びたのがうれしくて笑ったのではない。気が触れたのでもないと思う。勝者と自分が讃えられたことに対してだ。

 

勝者。僕がこの二つの勝負で得たものはなんであろう?そして失ったものはなんであろう?得たものと失ったものを比較して、たとえ幾ばくがプラスだったとしても、それが勝者といえるだろうか?僕は勝者ではない。サヴァイバーだ。

 

僕は笑い続けた。そして涙した。

 

 

 
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