FOOLS GOLD〔デーセケドガー〕23 | FOOLS GOLD 

FOOLS GOLD〔デーセケドガー〕23

彼女が部屋を出て行った後、ディーラーが僕に向かって勝利を讃えた。僕は勝利したことに何の喜びを見出す事はできなかった。生き延びた事に対する安堵感とまだあと1試合戦わなくてはならないことへの絶望感とで不思議な感覚に見舞われた。そのなかには彼女に対する罪悪感も入っていたかもしれない。罪悪を感じたのは、彼女を負かしたからではなく、この勝負に巻き込んでしまったのは僕の所為のような気がしたからだった。もちろん、実際の状況は逆だ。この奇妙で残酷な世界に僕を送り込んだのは彼女なのだから。

 

 

「ウィナー!」ディーラーの声が聞こえると同時に電気イスの電源が落とされた。急に身体が軽く感じられたが、震えは止まらなかった。傍からみれば、アルコール中毒の症状となんら変わりない。逆に電流が止まった為、余計に自分の震えが気になった。

ディーラーに促されて、僕はなんとか一人でイスから立ち上がりこの部屋を出た。身体をふらつかせながら廊下を歩き、2個隣りの部屋へ案内された。部屋の大きさは先の部屋と同じであったが、カードテーブルはなく、変わりに二人掛けのソファが置いてあった。僕はソファに倒れこんだ。

 

 

「よくやったな」

いつのまにか、ドス男が傍に居た。身体を起こして殴りかかってやろうと思ったが、身体が動かなかった。完全にスイッチが切れてしまったようだ。文字通り僕は指一本動かせなかった。代わりに言葉で悪態をついてやろうと思ったが、喋る気力さへ無かった。あきらめてまた目を瞑った。

「返事はしなくていい。黙って聞け。お前はまず1勝したが、もう一勝負ある。別の部屋でも勝負が行われていたが、まだ終わっていない。その勝者とお前は決勝を行う。その勝負に勝ってやっとお前はこのゲームから開放される。賭けで入手した金額とボーナス1千万を貰ってだ」

「次の勝負がいつ始まるかはわからない。たぶんあっちの勝者にも休憩時間が多少もらえるはずだ。正確な時間は俺でも分からないのさ。オヤジと広告屋で決めるんだ。どちらにしても早くケリをつけたお前は多く休憩できる分、有利だ」

「電圧は前の状態から始める。一度に上げるわけではない。すこしずつ電圧を上げて前の電圧まで上げるんだ。だから、安心しろ」

安心?いったい何を安心するのだ?あまりに疲れていたので厭味の質問さへ言葉にすることができなかった。どうせ口にしたところで厭味と認識してくれるか怪しいものだ。

ドス男は灰皿もないこの部屋で煙草に火を点けた。なつかしい香りがした。

「――は今、医者に診させている。別に死ぬようなことじゃない。ただ精神的にもつか、そっちが心配だ。まあお前が責任を感じることではないがな」

「タバコ」

「何だって?」

「タバコをくれ」

「ああ。いいだろう」ドス男は吸っていたタバコを僕にくれた。男からそんな風にタバコを貰ったの初めてだったが、気にしなかった。僕は二口吸ってから、部屋のスミに指で弾いた。ハードな一日だ。しかもまだ終わっていない。

 

 

僕が弾いたタバコをドス男が踏みつけるのを見届けた後、僕はすぐに眠りに落ちた。 

 

 

つづく 

 

 

 

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