エピローグ | FOOLS GOLD 

エピローグ

あれから3年が経過した。僕はあの出来事のあと会社を退職し(あたりまえだ。視力は回復し生活に支障は無かったが、急に小指を2本無くし、頭髪も真っ白になってしまったのだから。とてもサラリーマンを続けることはできなかった。)それまでの貯金を元出にして、JAZZ BARを開いた。場所は新宿2丁目だ。

 

2勝負目が終了した後、僕はヤクザの親分と会い約束通り1,000万円をもらった。勝ち金と合わせて1,800万円になった。そのお金にはまだ手を付けていない。あそこで貰ったボストンバックに入れたまま、店の奥に放り投げてある。この金は僕が身を犠牲にして得た金ではない。愚かな世界の愚かな住人になり愚かな脚本に準じた愚かな出演者への愚かなギャランティだ。いくつものマイナスな現象がもたらした負の産物だ。自分の愚かさを忘れないように捨てないで傍に置いておいた。

 

なにもかも終わった後、例の親分に気に入られたのか、組へ誘われた。僕は柄ではないので丁重にお断りした。翔さんみたいに男気があれば良いかもしれないが、僕には無かった。Vシネマを観ているだけで十分だ。

 

ニューオーダーが新譜を発表した。相変わらず極上のポップソングだ。彼らみたいに演奏の下手糞なバンドがかくも長くリスナーに受け入れられているのは奇跡だと思う。リグレットで「名前も住所も忘れてしまったよ」とうそぶいた彼らだが、今回は「全てが間違いだ。君の所為ではないけれど。君がいなくなって僕はどうすればいいのだろう?」といつもより素直に心情を語っている。

 

一度、新宿のBARでディーラーを見かけた。彼はステージの上に立ち、マジックショーを開いていた。その時一緒にいた連れに聞いたのだが、最近人気の凄腕スタンドアップマジシャンだそうだ。するとあの時の僕の印象は間違っていなかった事になる。僕と目が合った時、彼は微妙に目の光りが変化した。それは本当に微妙だったので、もしかしたら照明の加減でそう見えただけだったかもしれない。その後は見事な手さばきで客を魅了していた。相変わらずクールな男だ。

 

新宿駅で彼女を見かけた気がする。雰囲気は大分違っていたが、あの口元のほくろと胸の大きさは彼女だと思う。僕は咄嗟に左の小指に視線を這わせたが、そこにはきれいに指が5本連なっていた。彼女はチャカカーンだったのだろうか?

 

店は水曜日が定休日だ。理由は一番客数が少ないから。そして日曜日と月曜日は店を23:00に閉める事にしている。毎日明け方まで営業していたら赤字になってしまう。それでなくともなんとか営業している状況なのだから。そして月曜日には店を閉めた後、ローリングストーンに寄り、小1時間ロックを聴く。もちろん踊りはしない。カウンターでジントニックを飲みながら、――僕はジントニックが好きだ。ギムレットやマティーニだと自分もバーテンも周りがこころもち緊張してシリアスになる。その点ジントニックは平和だ。誰もジントニックに真剣さを求めない。平穏の象徴――70年代と90年代のロックに耳を傾ける。そして80年代と現代のロックにもほんの少し。

 

リクエストするのはニューオーダーの「ブルーマンデー」とストーンローゼズの「フールズゴールド」

僕の若かりし日々。気恥ずかしく、切なく、無防備だったあの頃。

 

「フールズゴールド」のイントロダクションが流れた。レニのドラミングが店内に響く。僕は学生時代を想い、そしてあの時僕の身に起きた奇妙な出来事に想いを馳せる。

 

 

おわり

 

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