FOOLS GOLD  -2ページ目

FOOLS GOLD〔デースケドガー〕24

ブラックアウト。

空軍のアクロバットチームが戦闘機でループしたりスクリューしたりして機の性能や操縦の技術を見せ付ける。スクリュー時には極度の重力が頭にかかり血が昇り、パイロットの視界は赤く染まる。この状態がレッドアウトとという。逆にループ時には重力が足にかかり、頭の血が極端に薄くなり、パイロットの視界は暗くなる。この状態がブラックアウト。プリントのネガフィルムみたいに、平面で光りのない世界。

 

「おい、そろそろ起きろ」

ドス男が僕を揺さぶった。この男に起こされるのは何度目だろうか?まるで十年来の友人と思い違いをしてしまう。まだまだゾウのように眠りたかったが、なんとか自分を奮い立たせ、身体を起こした。眠っている間に、ドス男が灯りを消してくれたらしい。部屋は暗かった。

「今、何時だ。それと灯りを点けてくれ」

「3時になったところだ。次の勝負は3時半から始まる。10分前には席に着かなければならない。」

「それから、灯りは既に点いている。見えないのか?」

鼓動が強く響き、早くなった。ドス男が喋っている方向へ目を凝らしてみた。人の姿はおぼろげに感じ取れる。だが顔も服装もわからない。自分の手のひらを見てみた。なんとなく手のひらがあることはわかる。試しにひとさし指のだけ伸ばしてみた。一本だか二本だか三本だか区別できなかった。照度でいえば0.005Lux。夜、星明かりのみの視界状況。

「見えない。これでも勝負を続けなくてはいけないのか?」

「もちろん。完全に見えないわけではないだろう?ただ部屋を最大値に明るくするようにする。デースケドガーではよくあることらしい」

やれやれ。こんな状態でカードを扱わなければいけないのか。僕は溜息をついた。とてもとても深く。あまりに深い溜息なので、目が悪くなっていなかったらきっと目に見えたに違いない。

 

 

つづく

 

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FOOLS GOLD〔デーセケドガー〕23

彼女が部屋を出て行った後、ディーラーが僕に向かって勝利を讃えた。僕は勝利したことに何の喜びを見出す事はできなかった。生き延びた事に対する安堵感とまだあと1試合戦わなくてはならないことへの絶望感とで不思議な感覚に見舞われた。そのなかには彼女に対する罪悪感も入っていたかもしれない。罪悪を感じたのは、彼女を負かしたからではなく、この勝負に巻き込んでしまったのは僕の所為のような気がしたからだった。もちろん、実際の状況は逆だ。この奇妙で残酷な世界に僕を送り込んだのは彼女なのだから。

 

 

「ウィナー!」ディーラーの声が聞こえると同時に電気イスの電源が落とされた。急に身体が軽く感じられたが、震えは止まらなかった。傍からみれば、アルコール中毒の症状となんら変わりない。逆に電流が止まった為、余計に自分の震えが気になった。

ディーラーに促されて、僕はなんとか一人でイスから立ち上がりこの部屋を出た。身体をふらつかせながら廊下を歩き、2個隣りの部屋へ案内された。部屋の大きさは先の部屋と同じであったが、カードテーブルはなく、変わりに二人掛けのソファが置いてあった。僕はソファに倒れこんだ。

 

 

「よくやったな」

いつのまにか、ドス男が傍に居た。身体を起こして殴りかかってやろうと思ったが、身体が動かなかった。完全にスイッチが切れてしまったようだ。文字通り僕は指一本動かせなかった。代わりに言葉で悪態をついてやろうと思ったが、喋る気力さへ無かった。あきらめてまた目を瞑った。

「返事はしなくていい。黙って聞け。お前はまず1勝したが、もう一勝負ある。別の部屋でも勝負が行われていたが、まだ終わっていない。その勝者とお前は決勝を行う。その勝負に勝ってやっとお前はこのゲームから開放される。賭けで入手した金額とボーナス1千万を貰ってだ」

「次の勝負がいつ始まるかはわからない。たぶんあっちの勝者にも休憩時間が多少もらえるはずだ。正確な時間は俺でも分からないのさ。オヤジと広告屋で決めるんだ。どちらにしても早くケリをつけたお前は多く休憩できる分、有利だ」

「電圧は前の状態から始める。一度に上げるわけではない。すこしずつ電圧を上げて前の電圧まで上げるんだ。だから、安心しろ」

安心?いったい何を安心するのだ?あまりに疲れていたので厭味の質問さへ言葉にすることができなかった。どうせ口にしたところで厭味と認識してくれるか怪しいものだ。

ドス男は灰皿もないこの部屋で煙草に火を点けた。なつかしい香りがした。

「――は今、医者に診させている。別に死ぬようなことじゃない。ただ精神的にもつか、そっちが心配だ。まあお前が責任を感じることではないがな」

「タバコ」

「何だって?」

「タバコをくれ」

「ああ。いいだろう」ドス男は吸っていたタバコを僕にくれた。男からそんな風にタバコを貰ったの初めてだったが、気にしなかった。僕は二口吸ってから、部屋のスミに指で弾いた。ハードな一日だ。しかもまだ終わっていない。

 

 

僕が弾いたタバコをドス男が踏みつけるのを見届けた後、僕はすぐに眠りに落ちた。 

 

 

つづく 

 

 

 

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FOOLS GOLD〔デースケドガー〕22

音がした。骨を鋭利な刃物で切り取る音だ。その音は自分の指を切り取った時よりも大きく響き、その居心地の悪い空気の震えが、僕の頭の中でこだました。

切断された指は、器具から5センチほど転がった。彼女は自分の指が切断される間際まで自分の指を見つめ、そして切断した後は、転がった指ではなくかつてそこに存在した指の不在を見つめ続けた。

彼女は声も出さず、目も瞑らず、ただじっと、指先を見つめていた。たっぷり1分はそのままでいたが、ゆっくりと時間をかけて白目を剥き、突然、突っ伏した。彼女の額とテーブルがぶつかり鈍い音がした。

 

ディーラーが彼女の様子をうかがい、両手を頭の上で交差した。

それが終了の合図なのだろう、医務院やらが部屋に入ってきて、担架で彼女を運び出した。

勝負続行不可能で決着がついた。

僕の勝利だった。

 

 

 

つづく 

 

 

 

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FOOLS GOLD〔デースケドガー〕21

前回につづいてビッグゲームになった6勝負目、流れは僕にあるといっていいだろう。このゲームは天王山というよりもむしろクライマックスになるはずだ。いまの僕に指を失う怖さなどない。(もちろん慣れたとはとても言えないけれども)むしろ電圧の方が恐怖だ。彼女は最初にデースケドガーを宣言したので、このままなら僕の目は最強の「9」だ。負けはない。

僕はデースケを宣言した。僕も彼女も宣言を変更しなかった。よし。また勝てたぞ。勝利を確信した刹那、彼女がとても小さな声で囁いた。

彼女の声はあまりに細く、よく聞きとれなかった。ディーラーが促すと今度ははっきりと口にした。

「NO!」

彼女は僕の宣言「デースケ」を否定したのだった。僕は一瞬訳が判らなかった。それは彼女が否定を購入するなんて思いもつかなかったから。なぜなら、なぜならこの局地的な限定的な閉ざされた世界にあって、彼女は「NO」という言葉を知らないはずだった。少なくとも僕はそう考えていた。だけどそれは間違いだった。そうだ、思い違いなのだ。初めて彼女を駅のホームで見かけた時、それはとても昔のお話、この奇妙な世界とは無縁の日々、彼女はナンパしにきた白人に向かってはっきりとNOと叫んだではないか。そう。彼女は否定する権利があるし、またその勇気も併せ持つのだ。

 

 

僕は「デースケ」を「デースケドガー」に変更した。彼女のカードも僕のカードも「9」でイーブンだった。金額も動かず、二人とも電圧はそのままだったが、彼女の前に例のきゅうり切断機が運ばれてきた。彼女は取り乱す事も目を瞑ることもなく、堂々と指を差し出した。その姿は決して自暴自棄になっているのではなく、恐怖で感覚がマヒしているのではなく、あきらめているのではなく、あらゆる事象をあるがままに受け入れている姿であった。かつて僕の人生で、この時の彼女ほど崇高な女性を見たことはなかった。

 

 

つづく

 

 

 

 

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FOOLS GOLD〔デースケドガー〕20

 

 

この時点で3勝2敗だったが、僕は自分の勝利を確信していた。それは、前回の大事な勝負に勝てたからではなく、それをギリギリの差でものにしたからでもなく、自分の指を犠牲にしてまで手にした勝利だからでもなく、そのため彼女の電圧が上がり彼女はもう正常な判断ができなそうだからではない。彼女が僕を見て泣いていたからだった。たぶん彼女は自分を罰しているのだ。今、彼女は僕を見つめ涙している。それは電気の所為ではなく、僕をこの世界に引き込んだことへの責念の想いからだ。あるいは、この世界の住人となった僕への同情からだ。

だけど。だけど、と僕は思う。それは君の問題であって、僕の問題じゃない。僕の問題はとにかく生きのびること。相手が誰とか相手の気持ちとか立場とかそんなことは瑣末なことだ。僕は自分にそういい聞かした。そうでないとこんどは自分が彼女に同情してしまう。同情してしまえば、こんどは自分が穴に落ちてしまう。僕は後ろを振り向く。そこには暗く深い穴が待ち受けている。その穴はあまりにも深いので距離感が掴めない。その深さを知ろうと思い覗き込めば、落ちてしまうのだ。それはとてもとても簡単に。

 

 

手許に5枚のカードが配られた。今回も是が否でも勝ちにいくつもりだ。彼女も自分が限界にいることが分かっているのだろう。6勝負目はレイズ合戦になって、賭金は500万円に吊り上った。

今回のカードは「ダイヤのJ、スペードの4、クローバの5、ハートの2、ダイヤの7」なかなかのカードだ。「5、2、7、J、4」と並べるか、あるいは「5、J、7、2、4」にするか。どちらにしても「7」になるところを宣言されれば、また拒否権を購入するつもりだった。彼女が拒否権を購入することはないだろう、この点でも僕に有利だった。このゲームで決める。僕はいきこんだ。

  

 

つづく

  

 

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FOOLS GOLD〔デースケドガー〕19

 

300Vに浸っている彼女の姿はとても恐ろしいものだった。顔は歪み、涎を口元に光らせ、その涎は光ったさきから焦がされていった。元々フラッパーな髪型はまさに天を突き、呪怨のお母さんも裸足で逃げ出すだろう。顔も身体も小刻みに震え、声にならない声でビブラートにつつみ低音で叫び続けた。あと1オクターブ低ければまさに呪怨の唸り声だ。唸りながら彼女は自分の腕を所在なく顔のそばにやったり、胸から腰をまさぐったり、片手を前に突き出したり、頭の上でクロスさせたりしていた。その様子はまるで昔流行したヴォーギングだった。ヴォーギング。マドンナ。世の中が浮かれていた時代。懐かしきバブル。懐かしき学生時代。彼女のヴォーギングは危機せまるものがあった。ファッションではなかった。瞳も焦点定まらず、所在なく動いていた。目には力なく精気が感じられなかった。

 

 

彼女の全ての動きが一瞬止まった。彼女の瞳にも一瞬光りが宿ったように見えた。それから涙がまさに滝のように流れ出てきた。これほどの涙の量を見たのは初めてだった。大声で泣く女がいる。長時間泣く女がいる。無言で一滴涙を流し、心に押し留める女がいる。女の涙には多くの種類があるが、この涙の量は異常だった。涙とは違う呼び名で呼ばれるべき何かだった。誇張でなく、水の流れ出る音がした。だがその音は涙の流れ出る音ではなかった。彼女は泣きながら失禁していたのだった。

 

 

「おい、もう止めてくれ、彼女は限界だ。もう、いいだろう!」

僕はディーラーに向かって叫んだ。

ディーラーは2メートル先のカップを見つめるタイガーウッズのような表情で、極めてプロフェッショナルに判断していた。まだだ、まだ限界ではない、彼の態度からそう判断しているのが分かった。

「まだ、、、、、できる、、、、」彼女も力を振り絞り答えた。

 

 

なぜ彼女がかくもこの勝負に固執するのか分からなかった。はやく失神するかなにかして勝負続行不可能にしてしまえばいいのだ。負けても彼女としては大した損にはならないはずだ。たかだが何百万だ。彼女の組はこの賭場の興行収入で大分潤うはずだ。もしくはコネなり人脈なりある世界での影響力なり、ある種の力を得るはずだ。それとも何か僕に分からないペナルティがあるのだろうか?分からなかった。

 

 

ディーラーが新たにカードの封を切りシャッフルした。6勝負目が始まった。

 

 

つづく

 

 

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FOOLS GOLD〔デースケドガー〕18

二人のカードが開示された。僕のカードは「8」だ。彼女のカードはなんだ?開けられたカードが目に飛び込んでくる。すぐには計算できない。200Vの電圧が僕の思考回路を揺さぶっている。それは彼女も同じはずだ。僕は簡単な足し算ができずに、苛立ちながら彼女を見た。

彼女の顔が歪んでいた。栗色の髪の毛がさらに逆立っていた。その顔をみて、もう一度彼女のカードを見た。ハートの4とクローバーの3、足して「7」だ。僕の勝ちだ。

勝負に勝ったうれしさと安堵感とこれからまた指を切断する恐怖感と彼女がこれからあじあう300Vの電圧への同情と僕にもすぐにその番が来るだろうというあきらめと恐怖感とそんななんやかやが一緒くたに僕の気持ちを揺さぶり、僕は咆哮した。こんなに腹の底から叫んだのは初めてだった。

 

 

全てのカードが開示された。彼女のカードは「ハートのJ、ダイヤの4、ハートの4、クローバーの3、ハートの8」デースケが「8」、ドガーが「7」、デースケドガーが「8」

たしかにこの目ならドガーを選択されても「NO」とはいえない。拒否権を発動しても比較して自分の目がそんなに良くなるわけでもない。それに彼女は女性だ。自分の身体を傷つけることは本能的に避けるはずだ。

彼女のカードの並びを見て、自分の運気を感じた。ギリギリで勝った。拒否権まで購入して勝負に勝てなかったら無駄に指をなくす。最悪2本イカレテしまうところだった。そして彼女のカードが自分のだったらと思うとぞっとした。比較的目のいいカードで同じように負けていただろう。これがデースケドガーというゲームの本髄だ。

 

 

ディーラーがまたしても優雅に淀みなく我々にプレゼントを贈った。僕には例のきゅうり切断機をくれた。お返しに右の小指を差し出した。これで2本目だけれども、この痛みに慣れる事はできない。燃えるような熱さを感じた。

 

 

そして彼女の電圧は300Vに上げられた。

 

 

現在、入手した金額、500万円。失ったもの、両手の小指。そして僕の電圧200V

 

 

つづく

 

 

FOOLS GOLD〔デースケドガー〕17




今度は彼女が考える番だった。
彼女の手持ちがいくらあるか分からない。あっても1千万くらいだろう。ただこの時点で金額はあまり問題ではない。僕が300万円にレイズしたことで、彼女には、僕が今回の勝負は自分の身体を賭けてでも闘う意思があることを理解したはずだ。実際彼女が1千万円にレイズしても僕は対応するつもりだったが、できればそこまで吊り上げたくない。僕の意図を汲み取ってくれれば、無駄に賭金を吊り上げることはしないはずだ。僕はコールしてくれることを願った。

僕の想いが通じたのか彼女はそれ以上レイズアップせずに300万円でコールした。 彼女はディーラーに300万円分の札束を渡し、僕は150万円と左の薬指と書いた紙を渡した。

 「では、何にしますか?」ディーラーは前勝負の勝者である彼女にまず尋ねた。
 「デースケ」彼女は答えた。答え方が200Vの電圧で既にいくらか朦朧としている様子だ。
 「何にしますか?」
 「ドガー」僕は最初の勝負と同じ理屈でまずドガーを選択した。
 「変更しますか?」
 彼女はデースケドガーに変更した。デースケドガー。デースケドガーだと僕の数は6だ。とても勝てる目ではない。僕は、宣言をドガーのままで変更しなかったが、拒否権を購入することにした。つまり「NO!」と叫んだ。
 (ざわ)    (ざわざわ)
    (ざわざわ)    (ざわざわ)
 満州式デースケドガーでは拒否権を購入できる。つまり相手の宣言を変更することができるのだ。ただし変更したからといって勝てるとは限らない。そしてその購入には必ず自分の身体で支払いをしなくてはならない。この勝負は落とせない、だからこそ、また自分の指を切断することになるが、拒否権を購入したのだ。

 彼女はそれを受けて、ドガーに変更した。どちらにしても残りの目は「8」なのでどちらでも良かった。彼女は拒否権を購入する事は無く、僕も彼女もドガーでの勝負となった。

 僕は自分を奮い立たせるため、自分の頬を力いっぱい張った。

 その拍子に静電気(とても大きい)が発生し、髪の毛を焦がした。

 余計なことをした。


 つづく


第 2 回 SEO コンテスト (新潟・スマトラ頑張れ!!)

FOOLS GOLD〔デースケドガー〕16




2勝2敗で迎えた5試合目、ビックゲームになる予感がした。どちらも200Vの電圧が掛けられてあり、そして少なくとも僕はこれ以上の電圧に耐えるなんて御免だった。下から突き上げてくる電気が体中を巡るさまが実感される。口の中はすぐに唾液でいっぱいになり、しびれるような苦い味がした。それは彼女も同じはずだ。この試合は双方にとって大事な試合になるはずだ。剣が峰である最初の試合を僕は落とした。そのため左の小指を切り落とす事になってしまった。天王山になるであろうこの5試合目。全力でものにしなければならない。

僕のカードは「スペードの2、ダイヤの6、クローバーのA、クローバーの5、ハートの2」だった。僕は熟考した。
まず、今までの彼女の宣言を思い出し、検証してみた。彼女は1試合目、デースケからドガーに変更そして勝利した。2試合目・3試合目はデースケドガーを宣言し僕の勝ち。4試合目は僕がレイズに応ぜず降りたため、宣言せずに彼女の勝利。
まず思いつく特徴は、彼女がデースケドガーで連敗していること。ドガーで勝利し、デースケは仮でしか宣言していないこと。彼女が縁起を担ぐタイプでなくても、デースケドガーは宣言しづらいはずだ。勝利したドガーか初めてのデースケか、それともツラ目のデースケドガーで攻め込むのか?いくら考えても答えはでない。ただ推理を重ね、推測するしかない。大金と自分の身体を賭けたゲームにあてずっぽうで望むわけにはいかない。
僕のカードから構築できる手は「5、2、6、2、A」と並べてデースケ、ドガー、デースケドガーをそれぞれ8、8、6とするか「5、2、6、A、2」と並べて8、7、7とするかどちらかだろう。無難に過ごすなら後者でも良いが、今回は勝負処だ。ここでひよった手作りをしてはいけない。それに前者なら弱い目はデースケドガーで、彼女が一番はずすところだ。

僕がダイヤの6を真中に開示して5枚カードをテーブルに並べ、彼女はハートの4を真中に開示して並べた。

「まずファーストベットを」
ディーラーに促され、100万円を渡した。
「レイズ オア ステイ?」
その問いかけに彼女が前回同様200万円にレイズした。
(ざわ)  (ざわ)
ギャラリーもここが山場とわかっているのでざわめきだした。
今僕の手持ちは200万円だ。ここでコールすれば、負けても半額負担なので、100万円を失うだけである。だが例えばレイズして300万円勝負になったら手持ちで足りなくなる為、また指を賭けなくてはならない。小指と全額200万円かもしくは薬指と150万円をだ。慎重にコールしようとして思いとどまった。おい、まてよ、よく考えろ。これまで何度も自分に言い聞かせてきたように、問題は指ではない、この電気イスなのだ。ここで引くわけにはいかない。
僕は300万円にレイズした。


つづく


第 2 回 SEO コンテスト (新潟・スマトラ頑張れ!!)


FOOLS GOLD〔デースケドガー〕15




最初の勝負で負けた後、なんとか2回連続で勝ちを拾った。僕はその時点で250万円を手にしが、その代わりに左手の小指を失い、イスには100Vの電圧がプレゼントされた。彼女の方は、金額がプラマイゼロで、200Vの電圧が彼女にかかっている。この勝負が始まってからずっと無表情だった彼女も、今では、髪の毛が逆立ち、眉間に皺を寄せ、瞳はこころもち寄り目になっている。

4回目の勝負は僕の手がぼろぼろで、はなから勝負にならなかった。カードを受け取った時点でとても勝てるとは思わなかった。ただこれまでミニマム勝負だったので、今回も考え無しに100万円をディーラーに預け、真中のカードを開示しようとした時、彼女がレイズした。レイズ?彼女の真意を測りかねた。彼女がいくら手持ちがあるのか分からないが、この勝負は金額を大きくして良いことはあまりないはずだ。なぜなら、負担は負け金額の半分で良いのでミニマムで賭けている限りそうそう指を切断することはない。彼女もおけらになって、自分の身体を傷つけるのは嫌なはずだ。考えられるのは、
1.お金の心配はない。
2.彼女も手が悪く、はったりで乗り切ろうと思っている。
3.200Vの電圧で彼女も身体的にまいって、早い勝負をつけたがっている。
4.200Vの電圧で彼女も身体的にまいって、正常な判断ができなくなっている。
5.以降の勝負を有利にするため、金はあるということを知らしめたい。
こんなところだろうか?結局分からないのと、僕の手が酷かったので、僕はレイズに合わせずに手を伏せ勝負を降りた。

ミニマムの100万円を彼女に支払ったがすぐに半額の50万円が至急されたので、手持ちは200万円になった。ルールでは勝負後、相手の手を見ることができる。彼女の手はデースケが6、ドガーが7、デースケドガーが9といたって普通の手だった。してみるとレイズした理由は先ほどの3か4の可能性が高いように思われた。

僕のイスも200Vに電圧が上げられた。

つづく


第 2 回 SEO コンテスト (新潟・スマトラ頑張れ!!)